ドンドンドン
すぐ横を走る電車とは違う響きを感じた。
19時50分。
「花火だ、花火だ」
「はじまった、はじまった」
バイト先の茶屋町のビルの三階、キーボードを打ちながら呟く声。
20時の10分間休憩、がやがやと皆でエレベータに乗り込み最上階の8階へ。
「あかん、今年は見えへんわ」
「去年はここからよう見えたのに」
再開発中の茶屋町、目の前の建設のビルが思い切り邪魔している。
諦めきれず、本館と別館を繋ぐ渡り廊下の窓に貼りつく。
音とともに街の隙間が色づき、
人気のないビルの窓に花火が映る。
「残念だったね」
すごすごとまたパソコンの前に座る。
花火の響きをこんなにも近くに聞きながら、
今夜は白い部屋でキーボードを叩きつづける。
淀川の花火大会が近づくとなんだかそわそわする。
もう河川敷に行かなくなってずいぶんと経つけれど。
今日はとびきり暑かった。
それでもやっぱり真夏の太陽の下で花火を待った幸せな人も多くいただろう。
昼過ぎに行けば、河川敷の好きのところに好きな広さで場所が取れる。
煙で花火が隠れないよう、風向きを確認しながら、シートを広げる。
日傘の蔭で本を読んだり、昼寝をしたり、ただぼんやりしたり、
だんだんと暮れていく空や、だんだんと点りだす対岸を眺めながら、
ときどきにわか雨に降られたり、ときどき気持ちの良い風に吹かれて。
そうやって花火を待つ時間が好きだった。
そうやって誰かと見る花火を待つ人たちは、みな幸せそうに汗を拭いていた。
茶屋町のビルの渡り廊下で、休憩時間の10分間だけ
「見えない花火」を見た今夜もまた、それはそれで淀川花火の思い出。
その10分休憩の間に諏訪から着信した。
10歳の誕生日を迎えた姪っ子に「おめでとう」を伝える。
早いもんだな、10年なんて。
去年の8月8日は、上海から「おめでとう」をメールした。
その日は北京オリンピックの開会式。
外灘のユースホステルの最上階のバーで
地元の人といろんな国から来た大勢の旅行客と一緒に
大きなスクリーンで開会式を見ていた。
スクリーンにうつる花火にみな拍手した。
ひときわ大きく拍手をした中国の人たちに向けて、旅行客がまた拍手した。
本当に早いもんだな、1年なんて。
来年の今日はどこで何をやっているんだろう。
そんなこと考えるとあっという間にその日が来そうでこわいから、もう考えない。