一つ、島で手にはいるもので、くらして行く。
二つ、できない相談をいわないこと。
三つ、規律正しい生活をすること。
四つ、愉快な生活を心がけること。
明治31年、太平洋上で遭難した龍睡丸。
乗っていた16人の男たちが小さな無人島に漂着した。
島でむかえたはじめての朝、船長と皆がかわした四つの約束。
「ぽかんと手をあけて、ぶらぶら遊んでいるのが、いちばんいけないのだ」
清水つくり、塩つくり、亀の世話、船が通らないかの見張り番。
絶望する暇もない。
助け合う相手がいること。果たすべき仕事と責任があること。
若い練習生への授業、「ごちそう」が出る雨の日の茶話会、
新しい発見、新しい友だち、ささやかな楽しみ。
「あの細い月がわかい者にはどくです」
夜中の見張りを若者にさせない小笠原老人、
体調が悪い彼に腹巻きがわりの帆布をわたす船長。
絶望することの恐ろしさ知っている大人たちが若者をそっと守る。
龍睡丸の船長・中川倉吉氏は、帰国後に商船学校の教官になった。
遭難当時の体験をせがまれて学生に語ったものが、そのままとめられている。
話をせがんだ学生こそが著者である須川邦彦氏だ。
昭和二十二年に講談社から出た本が、
ひょんなことから新潮文庫から2003年に再版された。
だからってこともあるのか、わざとなんだか
活字から入ってくるイメージとポップなイラストに違和感があったけど、
読んでいるうちに不思議に馴染んでいった。
出来すぎたノンフィクション、というか、
明治の海の男たちが格好良過ぎというか。
夜中の海の見張りをする小笠原老人の隣に座りたくなった。
乙姫さまの海の花園をのぞき、
陽に染まる雲を飽きずに眺めたくなった。
十六人の仲間になりたくなった。
久しぶりに読んで元気がもらえる本だった。