去年、か一昨年…CDプレーヤーが壊れた。
20年以上使っていたはず。
購入当時はクラシックのCDを集めていて、クラシック音楽をよく聴くという店員さんと相談しながら
スピーカーを選び、
ケーブルもとり替えたりしていた。
壊れてしまった時にそんなことを思い出して、
スピーカーとケーブルだけ残して処分した。
クラシック音楽には全く詳しくない。
ただ子どもの頃、クラシック音楽が好きな父親が集めていたレコードの中に、
一枚だけ、むちゃくちゃお気に入りのレコードがあった。
なんかお腹の中、
赤ちゃんの時から聞いていたようだ。
だからかかもしれないけれど
保育所、小、中、高校生になってもかわらず好きだった。
何歳の時かは忘れたけれど、
はじめて自分で針を落としても良いレコードだった。
大事に扱っていたつもりでも、
いつのまにか傷も入ってしまった。
それはバロック音楽の名曲を集めた一枚だった。
特になんちゃらのカノンとなんちゃらのアダージョが好きだった。
「四季」も好きだったけど小学校六年間で「給食の音楽」に変わり果ててしまった。
レコードの針が手に入りにくくなり、
回転盤のゴムが弛み、
レコードが聴けなくなった頃には、
とっくにCDの時代になっていたし、
バイトをして自分でCDやCDプレーヤーを買えるようにもなっていた。
その好きだったレコードのCD盤が見つからず、
オーケストラや指揮者も違うけど
同じ曲が入っているCDをとりあえず買った。
好きだったレコードの音色とは何か違った。
特に好きだったパッヘルベルのカノンは軽いようで重みがある、なんというか切ない感じが好きだったのに。
ちょっといつも泣きたい気持ちになるような。
なのに買ったCDは長調のように明るくて軽快すぎて、結局何枚も買い直した。
CDだからか、自分の感じ方がかわったのか…
どれも響かなかった。
ヘッドフォンを買い換えても響かなかった。
思い出も思い入れもあってか、
自分でも不思議なくらいカノンにこだわっていた。
音の記憶と子どもの頃のその時々の記憶が混ざっていたのか。
もう二度と同じカノンは聞けないんだろうなあ、
ということで諦めた。
そのあと好きな作曲家ができて、
好きな指揮者や奏者ができて…
クラシックCDはそれなりに増え…
音楽を聴くということ自体を忘れていた時も長くあり…
そしていつの間にかクラシックよりも
歌詞があるCDばかりになり、
その歌詞が日本語や英語から中国、韓国語へ。
また日々音楽を聴くようになっても
この数年はウォークマンやPCやスマホで音楽を聴くようになっていた。
そんなこんなでCDプレーヤーがなくて
まあ、よいか、
という感じで買い換えることはしなかった。
で、今年。
家で過ごす日が増え、
自分の部屋で過ごす時間が長くなった。
ふと耳元でなく部屋に音楽を響かせたくなった。
CDプレーヤーは壊れている。
ウォークマンはスピーカーがない。
WindowsPCはリビングにある。
部屋の片隅にこれまた古いiMacがオブジェ化していた。
目玉のようなスピーカーからのちょっと無機質に響く音が嫌いでなかったことを思い出す。
一時期、リージョン3のDVD再生の専用機にしていて使い込んでいた。
読み込みトレーが壊れてしまい、
CDを再生することはできない。
ただiPodを使っていた時に iTunesに何枚かのCDの楽曲が残っているはず。
確かウォークマンに入れてない、
久しぶりに聴きたい曲が入っていたようにも…
何年かぶりに電源を入れてみた。
iTunesの中には少ししか曲が取り込まれてなかった。
しかもほとんどがアルバム名や曲名が入っていない。
聴きたかった楽曲にたどり着くためにランダムで流すことにした。
久しぶりに部屋に音楽が流れ、
これまた久しぶりに耳にする曲ばかりで、
嬉しくなって楽しくなっていた時、
不意にあのカノンが流れた。
響いた。泣きたくなるカノンだった。
それから何曲かあと、
また泣きたくなった。
いつからか時おり頭の片隅に流れる、
でもなんの曲か思い出せないでいたメロディがきた。
響いて響いて、苦しくなった。
というかなぜかちょっと涙が出た。
昔に観た映画のサントラだ。
そっか、この曲だったんだ。
平日、休日、昼間も夜も部屋で過ごすいつもと違う日々。
また、出会えて良かった。
その映画を観た時にも、
好きなカノンが流れていたことは印象深かったし、よくおぼえている。
カノンだけでなく映画に使われていた楽曲が全部好きだった。
何より映画が好きだった。
それからずっと春から夏にかけてリピートした。
また部屋で過ごす時間が少なくなっても、それらの曲はiMacの二つの目玉スピーカーから部屋に響かせた。
まさかその映画を、
また映画館で観ることができるとは、
本当に思ってもみなかった。
感謝しかない。
しかしこんなに泣いたかな…
歳のせいかな…
二日連続で映画館に通う。
最終日だし、もう二度とない機会だろし。
夜のバイトがない月初。
仕事帰りにギリギリ間に合う時間と場所。
これまた感謝しかない。
自分の中のパッヘルベルのカノンは、
もうあのレコードのそれではなく、
この映画のものになった。
そして頭に残っていたあのメロディは、
エンドロールで大音量で歌詞とともに入ってくる。
前に観たのは十数年以上前のはず。
その時は全くわからなかった歌詞。
字幕とともに、
ほんの少しだけど自分が理解できる言葉で入ってきて、
むっちゃ泣く。
明日、起きられるかな。