「もうお昼だよ」
課長に声をかけられ、
あっという間に過ぎた時間に驚く。
指先に赤インクが点々と染みている。
これから年度末までに印刷納品を目指す
書籍や雑誌やら目録やら・・・ほんとに全部出すの?出せるの??
ちょっと楽しみであり、不安いっぱいの出版物たちの校正・校閲に追われる。
電話も来客もほとんどない。
学生の声もチャイムも消えた大学の端っこの事務室。
かさかさと紙がすれる音が響く。
岩波、広辞苑、用語ブック、日本史辞典、東洋史辞典、英語、仏語・・・
こんなに辞書を駆使し、紙の頁を繰るのも久しぶりだ。
カチャカチャとキーボードを打ってネットで調べる癖がついていた。
検索は一発で早いけれど、頁を繰ることで発見できることは案外多い。
「もう時間だよ」
3時に冷茶を注いだカップが汗をかいていた。
盆休みまでに次の段階に投げたい原稿はまだ山積み。
残業できない身分がうらめしくも、
集中できる時間的にはちょうど良いリミット。
梅雨が明けて、雲も日差しもまぎれもなく夏。
頭がぽかんと空っぽになって、すっきりと疲れて
まだ高い位置にある太陽に向かって帰路につく。
あっという間に夏も過ぎそうだ。