はじめて降りるバス停の脇はレンゲ畑だった。
遠い昔の5月の連休。
真っ赤なジャージ着て、6個入りのボールケースを担いで。
スポーツバックの中にはポカリと蜂蜜レモン。
凍らせたミカンの缶詰とマミー。
春のリーグ戦初日。
先輩たちの一部昇格を賭けた最後のリーグ戦だ。
開催高校の体育館の扉はまだ開かない。
すでに顔見知りになっている他校の部員たちと
扉の前で押し合いへし合い。
私が好きな市高の4番。
目が合って会釈する。
先輩たちはボールを持ち、私たちは大きな部旗を。
鉄の扉が開くと、一斉になだれ込んだ。
先輩たちは公式練習前のコートとり。
私たちは他校の1年生に負けじと2階に駆け上がる。
ギャラリーの手すりに部旗をはる。
コートの真上にばっちりはれた。
先輩が下から手を振る。
その日、先輩たちは全勝した。
こないだ車でそのバス停を通りすぎた。
住宅地の中にぽっかり残った空き地。
振り向いたらレンゲの赤紫。
コーヒー牛乳をこぼした染みが残る白い部旗を思い出す。