仕事の帰り道、
同じ時間のこの道を射す陽の角度が
いつのまにかずいぶんと高くなった。
あたたかくなったなあ~なんてのんびり歩いていると
駅前の商店街に流れるメロディがひょいと耳に入った。
不意にざわざした。
なんだか懐かしい、息苦しい。
曲の名前は出てこない。
でも、ものすごくよく知っているような・・・。
なんだろうなあ、この感覚。
白線が消えかけた運動場、すべり台に立つ自分の影。
「全校児童のみなさん」
大人ぶった幼い声がよみがえる。
放送部の下校の挨拶。
私は放送部のその声色がどうにも苦手だった。
「全校児童のみなさん、最終下校時間になりました」
バックに流れるいつものクラシック音楽。
多分、小学校の六年間、同じ曲が流れていた。
その音楽は大好きだった。
そうだそうだ、小学校の下校の音楽か。
すっきり。でも・・・。
12歳の2月の終わり。
最終下校時間までよく残っていたのは
小学校卒業前のこんな夕方。
先生に追い出されるまで教室で友だちとおしゃべりした。
喧嘩ばかりしていた男子と暗くなるまでドッチや手打ち野球をした。
私のよき理解者だった子は私立への入学が決まった。
大嫌いで大好きだったはじめてのライバルが卒業を前に転校してしまった。
好きだった子は県でトップの中学入試に失敗し休みがちだった。
同じ公立中学には進まず学区外へ引越しすることを知った。
生まれてはじめて切に時間を惜しんだあのときの気持ちが
下校の音楽の旋律とシンクロしてしまう。
そういえば、ヴィヴァルディ 「四季」の春は私にとっては「給食の音楽」。
バケツ一杯のクリームシチューやら筑前煮の匂いと映像が
あのメロディと一緒に瞬時に襲ってくる。