昨日の夜はあたたかかった。
急な待ち合わせがあって
夜のオフィス街に出た。
早くについたので外のベンチに座った。
風が気持ち良かった。
空を見上げると
雲がぎゅんぎゅん動いていた。
ビルのむこうへすいこまれていく。
少し体が冷えてきたころ、
去年辞めた会社の上司が向こうで手をあげていた。
「退職届けを出してきた」
思ったよりもすっきりとした顔の上司と飲んだ。
一杯目からハーパーを頼むのは珍しい。
私も飲んだ。
二軒目で後輩と合流した。
いつものように最後はタクシーでみなで帰る。
淀川をわたるとき、長い山影の上に大きな月が浮いていた。
橙色でぼやっと不気味なくらい大きな上弦の月。
「なんかこわい月やな」
いつもはタクシーの中で一番本音を語る上司は
言葉少なくその月をずっと見ていた。